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失業を克服するために [2002.10.14]

 労働経済学を専門とする京都大学経済研究所教授の橘木俊詔(たちばなき・としあき)氏著の「失業克服の経済学」(岩波書店)は、とても示唆に富む緊急提言です。

 著者は、失業問題解決のための政策の根幹は、
  (1)ワーク・シェアリング(労働時間短縮を中心とした仕事の分かち合い)と、
  (2)時間あたり賃金率の低下策であるとします。

 これら二つによって労働者の名目所得水準はやや落ちるが、デフレ下なので物価の下落と名目賃金(すなわち名目所得)の下落が同時に進むので、実質所得の定価は少しですむ。従って、家計消費への影響は非常に限定的となる。また、労働時間短縮によるゆとりのある生活は、賃金の減少を補うものがある、と論述しています。

 さらにマクロ経済における需要の不足を解消するために、第一に社会保障制度の改革により国民の将来に対する不安感を払拭して家計消費を刺激すること、第二に企業の福祉からの撤退、投資減税政策、ゆるやかな円安誘導、コーポレート・ガバナンスと企業倫理の確立等によって企業に活力を与えることを提案しています。

 加えて、求人・求職のミスマッチを最小にするために、年齢差別禁止の強化、教育・訓練政策の充実、職業紹介における規制緩和等が必要であるとします。

 これらの提言の根幹をなすのは、「豊かさを分かち合う」精神です。

 著者が、伝統的な財政・金融政策(マクロ経済政策)は現今の巨額な財政赤字を考えれば勧められないとすることには賛同しえないものの、長年の蓄積に基づく上記の論旨は説得力があります。

 オランダ、ブレア政権のイギリス、デンマーク、スウェーデンなどが、豊かさを分かち合うことによって失業問題の克服に成功した例が本書では紹介されています。
1982年の「ワッセナー合意」によってオランダの人達が、フル・タイマーの労働時間の削減や、賃金上昇の凍結あるいは削減という犠牲を選択したことは有名です。

 これと対比して、イギリスのサッチャー首相とアメリカのレーガン大統領による経済改革も紹介されています。そこでは小さな政府を目指し、民間の活力を生かすための、市場における競争の促進、公企業の民営化、社会保障を含む公共支出の削減、減税政策が徹底されました。

 思うに、人口が1億2千万人を超える大国日本で、「豊かさを分かち合う」社会的合意を形成することは容易ではありません。しか世界一豊かではあるものの、貧富の格差が非常に大きいアメリカが、わが国の将来像であるとも考えられません。

 著者が提言する豊かさを分かち合う社会へと、軸足を移すことが必要であるので
はないでしょうか。
















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